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福井地方裁判所武生支部 昭和47年(手ワ)19号 判決

原告 梅田厚

被告 ダイヤ撚糸有限会社

右代表者代表取締役 田賀脩一

被告 内田七郎

右訴訟代理人弁護士 加藤茂樹

同右 加藤禮一

主文

原告の被告両名に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告両名は各自原告に対し、金三八万円とこれに対する昭和四七年八月二五日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告両名の負担とする。

との判決ならびに仮執行宣言

二  被告両名

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は次の約束手形一通(以下、本件手形という)を所持している。

金額   三八万円

満期   昭和四七年八月二五日

支払地  鯖江市

支払場所 福井信用金庫鯖江支店

振出地  鯖江市

振出日  昭和四六年一一月二六日

振出人  ダイヤ撚糸有限会社(被告)

受取人  内田七郎(被告)

2  本件手形の裏面には

第一裏書人 内田七郎(被告)

同被裏書人 (白地)

ただし、被裏書人欄の「福井信用金庫」という記載が抹消されている。

第二裏書人 野口数夫

同被裏書人 (白地)

第三裏書人 室木修

同被裏書人 (白地)

なる記載がある。

3  被告会社は本件手形を振出した。

4  被告内田は被告会社代表者の署名のある本件手形に拒絶証書作成を免除して、裏書をした。

5  原告は本件手形を満期に支払場所に呈示した。

6  よって、原告は被告両名に対し、各自手形金三八万円とこれに対する昭和四七年八月二五日から支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告会社

(一) 請求原因第1、2項の事実は不知

(二) 同第3項につき、被告会社が本件手形を振出したことは認めるが、満期は昭和四七年三月二五日であり、振出日および受取人欄は白地であった。

(三) 同第5項の事実は不知

2  被告内田

(一) 請求原因第1項の事実は認める。

(二) 同第2項につき、第一裏書の被裏書人欄には「福井信用金庫」と記載されていたところ、右記載が抹消されたものであるが、同抹消には被告内田や右信用金庫の抹消印がなく、無権利者により抹消されたものであるから、白地裏書であるとは言えず、したがって、本件手形は裏書の連続を欠くものである。

(三) 同第4項につき、被告内田が本件手形に裏書をしたことは認めるが、本件手形の満期は昭和四七年三月二五日であった。

(四) 同第5項は争う。

三  抗弁

1  被告会社

被告会社は金融の必要上本件手形を訴外三井某に対し交付しておいたが、その後その必要がなくなったので返還をうけることになっていたところ、右三井が盗難にあったものである。

昭和四七年六月中頃に原告から本件手形につき電話で問合わせがあった際、被告会社は原告に対し、右盗難の事情および手形の満期が昭和四七年八月二五日になっているとすれば、それは同三月二五日であったものが変造されている旨を告げてあるから、右事情を知悉の上で本件手形を取得した原告に対し、被告会社は本件手形の支払義務を負わない。

2  被告内田

被告内田は昭和四八年三月二五日第一裏書の被裏書人である福井信用金庫に対し手形金額三八万円を支払って本件手形の返還を受けたので同手形に対する債務は消滅している。

その後被告内田が右手形を大久保某に預けておいたところ、同人らがその所持を奇貨として満期の三月の「3」を「8」に変造して流通においたもので、原告は本件手形の満期が変造されていることや第一裏書の被裏書人の記載が無権利者により抹消されたものであることを知りながら、敢えてこれを取得したものであるから所謂悪意の所持人にあたり、本訴請求は失当である。

四  抗弁に対する認否

1  (被告会社の抗弁に対して)

被告会社主張の抗弁事実は否認する。原告は、昭和四七年六月下旬か七月上旬に訴外室木修から本件手形の裏書譲渡をうけたが、事前に被告会社に電話したことはない。

2  (被告内田の抗弁に対して)

被告内田は本件手形を手形割引で福井信用金庫に裏書譲渡しておいたところ、昭和四八年三月二四日(被告内田主張の満期の前日)に買戻したもので、被告内田の福井信用金庫に対する手形割引債務は消滅しても、本件手形債務が消滅するものではない。また変造の点および第一裏書の被裏書人の記載の抹消者は不知であり、原告が悪意の所持人であることは争う。

第三証拠≪省略≫

理由

第一被告会社に対する請求について

一  甲第一号証(本件約束手形)の存在および弁論の全趣旨を総合すると請求原因第1項の事実はこれを認めることができる。

二  次いで同第2項につき検討するに、前掲甲第一号証の記載自体から本件手形の裏面には

(1)  第一裏書裏書人欄 内田七郎

同被裏書人欄   福井信用金庫

(但しこの記載は、マジックインキによるみみずのような一本の線で抹消されている)

(2)  第二裏書裏書人欄 野口数夫

同被裏書人欄   (白地)

(3)  第三裏書裏書人欄 室木修

同被裏書人欄   (白地)

なる記載がなされていることが認められる。

ところで、記名式裏書の記載のうち被裏書人の表示のみが抹消されている場合に、白地式裏書になると解するかあるいは裏書全部の抹消になると解するかについては見解が分かれているが、手形法一六条一項三段の趣旨ならびに無権利者による不正利用の防止の見地からみて、一旦なされた被裏書人の記載の抹消は、原則として裏書全部の抹消として取扱うのが相当であり、被裏書人の記載の抹消が権限のある者によってなされたことが手形の外観上明らかな場合(たとえば被裏書人の記載の抹消につき抹消印が押捺されていて、それが当該裏書の裏書人が裏書の際に押捺している印影と一致する場合など)にのみ、当該裏書は白地式裏書としての効力を有するものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、第一裏書の被裏書人欄には福井信用金庫と記載されていたものが、マジックインキによるみみずのような一本の線で抹消されており、右抹消の仕方はいささか異常であるうえに抹消印も押捺されていないから、手形の外観上、右抹消が権限のある者によりなされたことが明らかであるとは到底認められず、第一裏書は全部抹消されたものと判断せざるを得ない。

そうすると、本件手形の受取人は内田七郎と記載されているところ、第二裏書の裏書人は野口数夫と記載されていて手形の記載上裏書の連続を欠くことになるから、他に原告が適法な手形の所持人であることにつき主張立証のない本件においては、原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく、失当として棄却を免れない。

第二被告内田に対する請求について

一  請求原因第1項の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで同第2項につき判断するに、既に被告会社に対する請求において判示した如く、本件手形の第一裏書は全部抹消されたものと解するのが相当であるが、本件手形の受取人は内田七郎と記載されており、第二裏書の裏書人は野口数夫と記載されているので、いわゆる裏書の連続を欠くことになり、他に原告が適法な手形の所持人であることにつき主張立証のない本件においては、原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当としてこれを棄却すべきである。

第三結論

よって、原告の被告両名に対する本訴請求は、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 孕石孟則)

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